偏愛断簡集

徒然なるままに綴る。

「孤独の科学」F.ルッソ

日経サイエンス」7月号より面白い論文を見つけたので要約して紹介したい。「孤独の科学」である。

孤独感がうつ状態や認知力の低下、心臓疾患、脳卒中など精神的身体的疾患につながる脆弱性と関連していることを示す証拠は近年増えている。ブリガムヤング大学の心理学者であるホルト・ランスタッドらによる研究によると、孤独感や社会的孤立は早期死亡のリスクに肥満よりも関連しているとされている。2017年時点での科学的証拠から彼は孤独感だけでなく、孤立や人間関係の乏しさなど社会的なつながりの不足は公衆衛生上の重大な懸念であると結論づけている。

人はどのくらい孤独なのだろうか。デューク大学とアリゾナ大学が2006年に発表した研究では、「親しい友人がいない」と答えたアメリカ人の数は1985年から2004年までに3倍も増えている。孤独は「社会から孤立しているとの認識及び他者から切り離される経験」と定義されている。こうした孤独感は状況が変われば気持ちも変わり得るが、研究者が「慢性的な孤独」と定義する人々は状況の変化に関係なく深い孤独を長期間にわたって感じ続ける。
キール大学の心理学者ローテンバーグによると、慢性的な孤独感を持つ人々は他の人に比べて社会情報の処理機能の問題、精神的問題、人間関係への不適応を示す可能性が高いことが複数の研究で示されていると指摘する。
またローテンバーグは「一部の人たちにとって孤独を感じるという心の動きは、特に不安にかられている時に非常に強い。長引けば心の健康が蝕まれることがある」と言う。

20世紀の半ばから、心理学者は孤独とうつ状態などの精神疾患は異なるものだと考えて孤独に着目したが、注目はされなかった。ドイツの精神分析医のライヒマンは1959年の論文で孤独は早すぎる離乳から生じるとの理論を打ち出した。1970年〜1980年代に孤独の研究は進展し、孤独感の主な原因はその人を受け入れる社会的ネットワークやコミュニティに溶け込んでいないからだと一部の研究者は仮説をたてた。つまり認知の在り方に注目したのである。

人は一生のうちに特定の時期に孤独の影響を受けやすくなることが分かってきている。特に孤独感が強いのが30歳以下の若者と60歳以上の高齢者である。例えば結婚や同棲は孤独感を防ぐことが分かっているが、こうしたものはまだ結婚しようと思っていない若者にはあまり影響はない。また配偶者との死別が当たり前になっている高齢者にとってもあまり重要ではなくなっている。
研究においては若年層の孤独感が重視されている。この年代の孤独感は生涯にわたって影響するからである。孤独な子どもはうつの青年や成人となるリスクが高いことが分かってきたからだ。孤独感が強い子どもの多くは社会的スキルに問題はない。孤独感を持って大学生も同様である。だが彼らは概して自分の振る舞いを過小評価している。孤独感が強い子どもや若者は社会的包摂や社会的排除を示す状況やイメージに他の人とは異なる反応を示すことが分かってきた。
また若者の孤独感の原因に関する研究には人への信頼感の低さに起因する、との見方もある。

孤独についての研究が進めば、特定の原因からくる孤独のリスクにさらされている人々を発見しやすくなるだろう。南デンマーク大学の心理学者ラスガードらが行った研究によると、少数民族、失業者、障がい者、長期の精神病患者、単身者といった人々がハイリスクグループとされている。
孤独な子どもは孤独な大人となる可能性が高い。若年のうちに孤独への介入が必要となるだろう。