偏愛断簡集

徒然なるままに綴る。

「日本人の思惟方法」続き

2.人間結合組織を重視する傾向 a.人間関係の重視日本人は人間の持つ自然な感情を尊重するが、これは人間結合組織を重視する傾向として現れてくる。また人間関係を重視することは、日本人が礼儀作法を重んじる行動形式にも顕著である。西洋においては人々の応…

「日本人の思惟方法」中村元選集より、第3巻

なんとなく書棚を眺めて自分の嗜好や趣味に合いそうな本を見つけた時の喜びはなにものにも代え難い。普段はあまり注意深く見ない図書館の書棚を歩いていて本書を偶然見つけた。少し前にルース・ベネディクトの「菊と刀」を読んでいただけに、ちょっと興味を…

現代へのデッサン

現代というのは、見えにくいものだ。なぜかというと、現代という時代はあまりにも卑近なものとして私たちの中に現れているからだ。この2018年から数年間を描写するのと、300年以上前の江戸時代を描写することの易しさを比べると、江戸時代の方がはるかに想像…

「自由と社会的抑圧」シモーヌ・ヴェイユ

‪人間への深い理解と愛、そして社会と権力への厳しく鋭い眼差し。夢想と理想は違う。高度に組織化される社会や生産活動の中にあって、人々は混乱と無自覚、そして隷従の只中にいる。次第に個人が集団化、匿名化されていく時代にあって、ヴェイユは人々の啓か…

第9講 教育の複雑さ・微妙さを伝えたい 広田照幸

そもそも、「教育」とはなんであろうか。広田の定義では「教育とは、誰かが意図的に他者の学習を組織化しようとすること」であるそうだ。だが、「誰か」とは一体誰のことを指すのか、「意図的に」とはどのような意図なのか、それはどう正当化されるのか…など…

第8講 悲しみをわかちあう 金子絵里乃

社会福祉学というと、どうしても高齢者や介護について学ぶものであるとのイメージが先行する。だが、社会福祉学の根底には一人一人の命を尊ぶという価値があり、孤独な人や苦悩している人、人との繋がりや生きる気力を失いつつある人、援助に繋がりにくい人…

「知のスクランブル」第3講:古典と二次創作

日本大学文理学部編「知のスクランブル-文理的思考の挑戦」ちくま新書 第3講 物語を読む・作る-古典と二次創作 佐藤至子 「現代用語の基礎知識2016」では、二次創作について以下のように説明している。 「既存の作品に基づいて、新たな作品を創作すること。…

フロイト:夢について

前科学的な時代には、夢に対して説明するのに窮することはなかった。目覚めた後に思い出される夢は、より高次の神的な力による恵深いお告げか呪わしい徴しかのどちらかであるとみなされていたからである。だがこうした神話は自然科学的思考法の発達により、…

第3篇:思春期の形態変化

思春期の到来とともに、幼児期の性生活を最終的な正常形態へと移行させる変化が始まる。性欲動はこれまで自体性愛的であったのが、性対象を見出していくのである。性欲動はこれまで一つ一つの欲動や性源域から性活動を行なっていた。これらは互いに関係を結…

第2篇:幼児性欲

性の欲動に関する通俗的な意見に、幼児期には性の欲動は欠けていて思春期になって初めて目覚めるもの、という主張がある。これは単純な間違いであるだけでなく、性生活の基本的事情についての私たちの無知もこの間違いに由来するものである。 新生児は、性欲…

フロイト「性理論のための3篇」第1篇:性的異常

このところ心理学へ興味が出てきて、フロイトをちまちまと読んでいる。心理学に限らず、ある学問上の概念が社会に浸透していく過程において本来の定義や意味が極端に単純化・一般化され誤解されたまま理解されていることは多い。心理学とは、見えない心の領…

私の痛み、誰かの痛み

「カミングアウト・レターズ」RYOJI+砂川秀樹編太郎次郎社エディタス 人は誰だって、自分の見ているもの、見えているもの、見ることのできるものを全てだと思う。その視野から零れ落ちたものは「異端」や「異常」なものとして認識され、切り捨てられる。例え…

資本主義とゲイ・アイデンティティ

最近、私の中での主要テーマの一つは「セクシュアリティ」であると感じている。それは生きることの一側面である。ゲイのみでもレズビアンのみでも、もちろんヘテロセクシュアルのみで人は生きるのではない。(ふふ、聖書の中でもキリストは言っていた。人はパ…

クイア・スタディーズについて

私たちの間にある差異や多様性。特にセクシュアリティに関するもの、こうした差異や多様性そして社会心理的な、あるいは歴史に根ざした構造的な問題について研究するのが「クイア・スタディーズ」である。今回はこの西洋由来の魅力的な学問をざっと見ていき…

「セルフ・ネグレクト」

もう数年前のニュースだったが、ある親子が餓死したという記事を目にした記憶がある。彼らは市役所から生活保護を受けるように、と再三促され家庭訪問もなされていたのにも関わらず拒否し続けた末の結末であったと記憶している。私はこの報道にかなりショッ…

ブッダのことば

「ブッダのことば スッタニパータ」中村元訳岩波文庫 「ブッダの真理のことば 感興の言葉」中村元訳岩波文庫 生きることは難しい。なんてことを最近は思う。職業柄色々な人と接する。業務の内容よりも、相手との人間関係の方が辛く感じることが多い。あぁ、…

「孤独の科学」F.ルッソ

「日経サイエンス」7月号より面白い論文を見つけたので要約して紹介したい。「孤独の科学」である。 孤独感がうつ状態や認知力の低下、心臓疾患、脳卒中など精神的身体的疾患につながる脆弱性と関連していることを示す証拠は近年増えている。ブリガムヤング…

「譲りたくないもの」改稿版

以前自分が書いていたエッセイを久し振りに読み返してみた。私は基本的に頭に浮かんだことを、特にオチもまとまりもなく好き勝手に書いていく。読んだ本の感想や、日常生活の中での気づき、そして小説や創作に関することなど…。今回読み返してみたのは小説に…

クラシック音楽と無二の感覚

私はクラシック音楽が好きだ。基本的にクラシックしか聴かない。理由は単純で楽器の音が好きなのと、訳のわからないチャラチャラした音楽を聴きたくないからというのに尽きる。クラシックは聴いていて飽きない。クラシック好きといっても私の趣味は偏ってい…

美しきセオリー

「知のトップランナー 149人の美しいセオリー」ジョン・ブロックマン編長谷川眞里子訳 本書は図書館で「学問・教養」の棚で見つけた。最近はこの棚を見るのが好きだ。教養とはなんだろうか?ソローは「記憶によってではなく、自らの思索に基づいたもののみが…

魔術と宗教、そして人々

魔術の人類史スーザン・グリーンウッド 超田内志文 訳東洋書林 私はオカルトが好きだ。心霊やら呪術の類いに心惹かれる。科学では説明のできない、人間の知性では追えないような領域を見るのが好きである。そんな中で手に取ったのがスーザン・グリーンウッド…

あなたはどんな人ですか?

「女性同性愛者のライフヒストリー」矢島正見 編著学文社 私は定期的に、セクシャルマイノリティーの勉強をしている。これには2つの理由がある。まず一つ目は、私自身がレズビアンであるということ、2つ目は性の在り方や多様性、そして学問上における議論…

ヨーロッパにおける人文学

「人文学(人文科学)」とは、人類が創造した文化を広く対象とする学問である。今日では一般に社会科学や自然科学とされ哲学、文学、歴史学など大学の教養課程や文学部などで教授される学問となっている。よって、人文学は抽象性を帯びている学問と一般に受け…

ラ・ボエシ「自発的隷従論」

図書館の帰りに、書店に寄ってなんとなくふらついていると面白そうな本を見つけた。エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ著の「自発的隷従論」だ。不勉強な私は初めてその名前と著書を知ったが、ちくま学芸文庫から出ていることもあり買って読んでみることにした。…

シモーヌ・ヴェイユを読んで

本との出会いは、人との出会いに似ているようなところがある。連休最終日に図書館へ行って、いつものようになんとなく哲学の書棚を巡っているとシモーヌ・ヴェイユを見つけた。以前より読者の方から名前を聞き、勧められてもいたので「これは!」と思って手…